3月 03 2011
権利証(登記識別情報通知書)を失くしてしまった場合
売買による所有権移転の立会を行うと私の経験上,10人から20人に1人くらいの割合で権利証(登記識別情報通知書)を紛失されてしまっています。
権利証が無くても所有者の方ご本人であれば下記の方法により売買による所有権移転登記はできますので手続的には権利証がなくても問題ないのですが権利証がない分,余分な手続ないし費用がかかってしまいます。
権利証が無い場合に登記を行う方法としては次の3つが規定されています(不動産登記法23条)。
<事前通知>
これは,権利証が無いまま所有権移転登記を申請した場合,法務局から売主さんの住所宛に「あなたの不動産売られてますけどいいですよね?」という確認のハガキが送付されてきます。このハガキのに「登記申請は真実です」という欄に署名押印して2週間以内に法務局へ提出することで登記手続が進むというものです。
通常は司法書士等が登記申請をしたときに登記が受け付けられ,その順位で権利が保全されるわけですが,事前通知による申請の場合は,あくまで「2週間以内にハガキを提出したら登記を進めます」という暫定的なものなので,買主さんとしては2週間心配でなりませんし,登記をした司法書士としても心配でなりません。
例えば,売主であるAさんがBさんに不動産を売却し,BさんはAさんに代金を支払った上で事前通知による方法で登記申請をしました。ところが,Aさんはハガキが着たのに法務局へ提出せず,それどころかその間にCさんに売却したとします。そして,Cさんへの売却に関するハガキを法務局へ提出すればCさんの方の登記が進んでいくことになりますので,Bさんは代金を支払ったのに不動産はCさんのものになってしまうという事態が起こりうることになります(ちなみに,この場合はAさんは横領罪や詐欺罪に問われます。)。
したがって,住宅ローンを完済した場合の抵当権抹消登記や親子間での贈与などハガキを出さなくても被害を被る人がいない場合でない限り,基本的には事前通知による申請は使えないということになります。
そこで,不動産の売買の際に使われているのが下記の「資格者代理人による本人確認」です。
<資格者代理人による本人確認>
これは登記を代理して申請する司法書士等が所有者の方と面談をして,「所有者の方本人に間違いないことを確認しましたよ」という書類を司法書士等が作成すれば,その書類がある意味権利証の代わりになるというものです。なお,あくまで「登記を代理して申請する司法書士等」が本人確認をしなければなりませんので,本人確認だけを知り合いの司法書士等に依頼し,登記だけは別の司法書士に依頼するということはできません。
この資格者代理人による本人確認をすれば,前住所通知等様々な手間が省けるため,権利証がない場合には一番多く使われている手段だと思います。
しかし,所有者さんとしては,司法書士等から「干支はなんですか?この不動産はいつ買ったんですか?権利証を最後に見たのはいつですか?」といった,捉え方によっては失礼な質問を受けることになってしまうので気分的にあまり良いものではないと思いますし,資格者代理人による本人確認の場合なんといっても数万円から十数万円の費用が余分にかかってしまうというデメリットがあります(権利証の紛失は売主さんの責任ですので,売主さんに費用をご負担いただきます)。
私ども司法書士の立場としても,権利証の有無に関係なく売主さん本人であるかどうかの確認は行いますが,やはり権利証があるということが本人確認の一つの大きな要素となりますし,万が一,売主さんと名乗る方が実はニセモノだったという場合,内容によっては司法書士が懲役刑に処せられることもあります(不動産登記法160条)ので決済日当日まで権利証を探していただくようお願いしております。
<公証人による本人確認>
本人確認については,上記の資格者代理人ではなく,公証役場をお訪ねいただき,公証人に本人確認をしてもらうということもできます。
ざっくり申し上げると,司法書士に対する登記申請の委任状にご署名ご捺印いただき,その委任状に「確かに売主さん本人が目の前で署名しましたよ」という認証文を公証人に付けてもらい,その委任状を登記申請書に添付すればある意味権利証の代わりになるという制度です。
資格者代理人による本人確認と比べると10分の1くらいの費用ですので私はこれが一番良い手続きだと思っていますが,現実的に利用される件数は少ないと思われます。
公証人による本人確認は,印鑑証明書や実印,運転免許証及び認証文を付ける委任状を持って公証役場へ行き,数千円程度の認証手数料を支払うだけですので,費用対効果を考えると結構使える手続ではないかと思っていますが,公証人による本人確認によっても前住所通知は省略されませんし,やはり公証役場へ行くということ事態が結構手間ですので,なかなか使われていないのかも知れませんね。私もこの方法では一度しか申請したことがありません。
あくまで上記の手続は権利証(登記識別情報)を紛失した場合に使う手続ですので,やはり権利証(登記識別情報)を失くさないよう,しっかり保管していただくのが一番だと思いますし,司法書士の立場としてもその方が助かります・・・。
※平成29年3月13日追記
上記の「公証人による本人確認」について,たびたび必要書類などのご質問をいただくことがあるのですが,上記のとおり「司法書士に対する委任状」が必要となりますし,登記の内容によって必要な書類も変わってくることから,内容を把握していない当事務所で回答できないことが多々あるとともに実際に登記を担当する司法書士の関与無しにこちらの手続を進めることは極めて困難です。したがいまして,当事務所では一般論でしか回答ができませんので,具体的な必要書類等をお知りになりたい場合は実際にご依頼される司法書士に対してご質問されますようお願いいたします。
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