12月 25 2017
「贈る」の意味と受遺者の相続人に対する遺贈
不動産をお持ちの方がご自身の死後にどなたかに対して不動産を渡したい場合,遺言書にその旨を書いておくことで相続人や遺言執行者によって実行されます。
法律的にはいくつか方法があり,相続人に対して渡す場合は「遺産分割方法の指定(相続)」,相続人及び相続人以外の方に対しては「遺贈」や「死因贈与」が考えられます。このうち,死因贈与はあまり見かけることはなく,相続または遺贈が多いように思います。
遺言書の文言
さて,この相続と遺贈ですが,過去に書いた記事のとおり,登記手続に際してかなり異なります。基本的には相続の方が費用も安く,関与する人数も少なくなりますので,遺言書の作成に関与させていただく場合ももできる限り相続で進められるよう進めてまいります。しかしながら,専門家が関与していない場合,どちらで解釈すべきか分からない文言があります。
例えば,
「やる」,「あげる」,「与える」,「譲る」,「譲渡する」,「譲与する」,「渡す」,「贈る」,「分ける」,「分配する」,「~の所有とする」,「~の名義にする」,「~の権利とする」,「~のものとする」,「~が取得する」,「任せる」
などは,遺贈する趣旨なのか,遺産分割方法の指定の趣旨なのかその文言のみでは判断がつきにくく,このような文言で書かれている場合,登記実務では「遺言書の全文から遺言者の真意を総合的に判断する」とされております。
なお,あくまで一般論となりますが,「やる」,「あげる」,「譲渡する」,「贈る」は遺贈と解釈されやすく,「分ける」,「分配する」,「の名義にする」,「が取得する」は遺産分割方法の指定と解釈されやすいように思います。
今回当事務所で手続をさせていただいた件では「贈る」とされており,法務局と協議をした結果,「遺贈」となりました。
財産をもらう方の順序
遺産分割方法の指定や遺贈をする場合,順序というか財産をもらう方が亡くなったときの対処を書くことがあります。
例えば,遺言者(父)には長男Aと次男Bがおり,長男Aには妻Cと子Dがいたとします。
この場合に,遺言者が「名古屋市の土地については長男Aが相続する。ただし,遺言者より長男Aが先に死亡している場合は次男Bが相続する。」という遺言を書いたとします。この場合,遺言者が亡くなったときに長男Aが生きていれば長男Aが土地を相続し,長男Aが亡くなっている場合は次男Bが土地を相続することとなります。
また,「名古屋市の土地については長男Aが相続する。ただし,遺言者より長男Aが先に死亡している場合は長男Aの子Dが相続する。」というように,遺言書を書いた時には相続人ではない孫に相続させることも可能です(長男Aが遺言者より先に死亡した場合,孫であるDは遺言者の代襲相続人となります。)。
では,「名古屋市の土地については長男Aが相続する。ただし,遺言者より長男Aが先に死亡している場合,長男Aの相続人が取得する。」となっていた場合はどうなるでしょうか。
遺言者より長男Aが先に死亡した場合,子Dは代襲相続人となりますが,Aの妻Cは相続人とはなりません。この場合,「遺言者の相続人となりうる人に土地を渡す趣旨だから,この場合は子Dだけが土地を取得する。」という解釈もできそうですし,「あくまで長男Aの相続人に土地を渡す趣旨であるからAの妻Cも土地を取得する。」という解釈もできそうです。
今回当事務所で手続をさせていただいた件に関して法務局と協議したところ,法務局の判断としてはCも取得するということになりました。もし,子Dだけであれば登記の際の登録免許税は評価額の4/1000になるのに対し,妻Dに関しては評価額の20/1000となりますし,遺贈となると権利証や印鑑証明書が必要となりますので必要書類も多くなります。
ということで,遺言書の文言一つで登記費用が何倍にもなってしまうことがありますし,もしかしたらご自身の思いとは異なる解釈をされてしまって想定外の方に財産が渡ってしまう可能性がありますので,遺言書を作成される際は弁護士や司法書士などの専門家にご相談いただいた方が良いかと思います。
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