3月 30 2018
住所のつながりを証明する書類
登記における所有者等の特定は,住所と氏名で行います。
例えば,平成20年にA市B町1番地に住む甲野太郎さんが不動産を購入した場合,登記簿には,
住所 A市B町1番地
氏名 甲野太郎
と登記されています。
平成30年になり,甲野さんが不動産を売却する際に,甲野さんがC市に転居している場合,当該不動産を売却する登記の際に提出する甲野さんの印鑑証明書には当然ながらC市の住所が記載されていますので,登記簿に記載されている甲野太郎さんと今回登記手続に関与している甲野太郎さんは別人だと判断され,売却に関する名義変更の登記(所有権移転登記)申請は却下されることになります。
そこで,まずは登記簿に記載されている甲野さんの住所をA市からC市に変更する登記を申請し,その後に売買による所有権移転登記を申請することになります。
一見,単なる住所の変更なので簡単なようですが,実は奥が深く,場合によってはかなりややこしい手続だったりするので,今回はこちらについてまとめてみたいと思います。
住所の変更は基本的には住民票
(1)住所移転が1回
上記の例で言うと,甲野太郎さんは現在お住まいのC市の住民票を取得すれば「前住所」の欄に「A市B町1番地」という住所が記載されていますので,C市の住民票があれば簡単に証明できます。
(2)同じ市内(区内)で複数回の住所移転
A市の中でB町,C町,D町,E町と複数回の住所移転がある場合,最新のA市E町での住民票を取得しても前住所としてはD町の住所しか記載されていないことがありますので,これだけでは証明ができません。この場合,履歴が載っている住民票を請求するとすべて記載されている場合があります。
具体的には,名古屋市名東区内で複数の移転があった場合,名東区内でのすべての住所が履歴として記載されています。ただし,他の区での履歴は記載されないため,同じ名古屋市内でも区が変わってしまうと,次の(3)以降のケースで住所を繋げるしかありません。
(3)異なる市内(区内)での複数回の住所移転
A市→B市→C市と住所移転をしている場合,C市の住民票を取得しても前住所としてはB市の住所しか記載されていないのでA市とのつながりが分かりません。
そこで,次にB市にて住民票除票を請求すると,そこには,「前住所」の欄にA市の住所が記載されており,さらに転出先の住所としてC市の住所が記載されているため,A市→B市→C市のすべてのつながりが証明できることになります。
しかし,この住民票除票は転出等により除票になったときから5年が経過すると消除(抹消)されてしまい取得することができなくなります(住民基本台帳施行令第34条1項)。
つまり,本日の平成30年3月30日で考えると,B市からC市に転居したのが平成25年3月30日よりも前だった場合,B市に行ってもすでに住民票除票は消除されているため,取得することができなくなります。
なお,一部の市区町村においては5年以上前の除票でも取得できる場合がありますが,あくまで例外ですので過度の期待はできません。少なくとも名古屋市では絶対に出ませんので別の方法を考える必要があります。
(4)戸籍の附票で繋げる
同じ本籍地にある期間に住所移転した場合,その住所の履歴が記載されているものが戸籍の附票という書類です。
例えば,A市B町1番地に本籍地がある方が,本籍地を変えないまま,A市→B市→C市→D市と移転した場合,年数に関係なくすべての住所移転の履歴が記載されていますので,戸籍の附票だけですべての住所を繋げることができる場合があります。
ただし,あくまで同じ本籍地内での住所移転しか記載されませんので,転籍により本籍地が変わった場合はそこで途切れてしまいますし,結婚や離婚などにより新しく戸籍が作成された時も途切れてしまいます。加えて,最近よくあるのが電算化(簿冊→コンピューター化)による改正で役所によって勝手に戸籍が作成されている場合です。この場合も途切れてしまいます。
そして,何より厳しいのが,転籍,結婚や離婚,電算化などによって新しく戸籍が作成された場合,従前の戸籍の附票についても住民票除票と同様に5年経つと消除されてしまって取得することができなくなってしまいます。
平成に入り,多くの役所において戸籍の電算化が進んでいますので,昭和時代の住所移転については戸籍の附票で証明することが難しくなっています。
(5)最後の手段の申述書(上申書)
このように,役所で取得できる書類については保存期間の経過により取得できないこともありますので,完全に住所の繋がりを証明することができないケースもあります。そのような場合には最後の手段として,申述書による自己証明が認められています。
これは,「私は,A市→B市→C市→D市と住所移転をしているところ,A市からB市への住所移転については保管期間の経過について証明することができませんが,登記簿に記載されている甲野太郎は私であることに間違いありません。」というような趣旨の書類を出すことで住所移転登記を認めてもらうということです。
もっとも,申述書だけで認められるわけではなく,所有者であることに間違いないことを証明する資料(権利証や固定資産税の納税証明書)を提出したり,「不在籍・不在住証明書」などを提出することもあります。
(6)住所移転によらない変更
市町村合併による住所の変更や住居表示実施による変更など,役所の都合で住所が変わる場合があります。
この場合でも住民票で証明することもありますが,役所で変更の証明書が無料でもらえますので,こちらで証明していくことになります。
氏名変更は基本的には戸籍
住所と異なり,氏名変更は戸籍謄本等を取得すればすべて繋がります。
氏が変わる場合としては,結婚や離婚が一番多いかと思いますが,その旨はすべて戸籍に記載されています。また,養子縁組によって氏が変わることもありますが,これもまた戸籍に記載されています。さらに,家庭裁判所の許可を得て,氏や名が変わることがありますが,これもまた戸籍に記載されます。
そして,戸籍や除籍,改正原戸籍など過去の戸籍については,住民票除票の5年とは異なり,戸籍謄本は永遠に,除籍謄本や改正原戸籍は150年間保存されているため,取得できないケースはあまり多くありません。
もっとも,戦災により焼失していたり,すでに保存期間経過で廃棄されている場合(平成22年までは除籍等の保存期間は80年でした。)には,上記のとおり申述書等によって証明していくことになります。
ということで,住所や氏名の変更は結構地味な登記なのですが,この登記をしないと名義が変えられない重要な登記だったりしますし,結構奥が深いものです。
なかなか住所変更登記にお困りの方は多くないと思いますが,もしお困りの場合はぜひご相談ください。
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