7月 31 2018
配偶者居住権の新設
相続法が大改正され,新しい制度や大きく改正された制度がいくつかあります。
今後何回かに分けて,改正された点についてまとめていきたいと思います。
いきなりですが,具体的な事例を挙げてみます。
被相続人(亡くなった方)→ Aさん(夫)
相続人 → B(後妻),C(前妻との子)
Aさんが亡くなったときには,預貯金等のめぼしい財産は一切なく,唯一残されたのがAさん名義の自宅(3000万円相当)でした。
Aさんが亡くなるまで,Bさんも一緒に生活しておりましたが,Cさんはすでに結婚して別で家族を築いていました。
Bさんは,自身の預貯金は500万円程度であり,これを元手に自分が亡くなるまでは自宅で生活していきたいと考えておりましたが,前妻の子であるCさんは自宅を相続することを譲らず,相続について話し合いで解決するのは難しい状況でした。
このようなケースを前提として,新しく新設された配偶者居住権についてまとめたいと思います。
今までは
相続人は後妻であるBさんと前妻の子であるCさんの2名であるため,法定相続分としては2分の1ずつとなり,遺産が自宅のみということであれば,自宅に対する持分を各自2分の1ずつ相続することとなります。
預貯金など簡単に分けることができる財産で有れば単純に分割すれば良いのですが,不動産の場合は,その後の管理や処分の問題があるため,遺産分割協議を行ったうえで,相続人のどなたかに相続させることが多いかと思います。
今回のケースの場合,遺産分割が行われるまでの間に関しては,とりあえずはBさんは居住し続けることができます。というのは,共有者である以上,自宅を利用する権限があるからです。また,平成8年12月17日最高裁判決により,少なくとも遺産分割協議がまとまるまでの間に関しては,Cさんに使用料などを支払うことなく居住することができることとされています。
この点,相続人間の関係が良好であり,特に揉めていないようであれば何も問題はありません。
しかしながら,今回のケースのようにもめているということであれば,いずれ遺産分割調停などを起こされ,遺産分割を迫られることは容易に想定できます。
遺産分割協議にしても遺産分割調停にしても,このような状況になれば法定相続分をベースに話し合いを行うことになるかと思われ,下記の2つが考えられます。
(1)自宅を売却したうえで,BさんとCさんで1500万円ずつ分ける(換価分割)。
(2)BさんまたはCさんが自宅を相続し,相手方に1500万円を支払う(代償分割)。
Bさんとしては今後も自宅で生活していきたいと考えているということであれば,上記(2)で自宅を相続することになりますが,Cさんに対して1500万円を支払わなければなりませんがそのようなお金を用意することができませんので解決ができません。
※Cさんが相続し,Bさんとの間で賃貸借契約を締結するということも考えられますが,毎月の賃料の支払いが必要となりますし,Bさんは契約解除による退去のリスクがあります。
※BさんとCさんとの間で,Bさんが相続するが,Bさんが死亡した場合にはCさんに遺贈する内容の遺言書を書くことで合意するということも考えられますが,遺言書はいつでも書き換えることができますので,Cさんに大きなリスクがあります。
配偶者居住権とは
配偶者居住権とは,「配偶者である相続人が,被相続人の遺産である建物を無償で使用及び収益することができる権利」です。
したがって,上記のケースにおいては,自宅はCさんが相続するものの,Bさんは一生無償で自宅で生活することができます。
これにより,賃貸借契約と異なり,Bさんは契約の解除によって退去しなければならないというリスクを負わなくて済みますし,CさんとしてはBさんから遺贈を受けるのではなく,Aさんの自宅をすぐに相続することができますので,遺言書の書き換えのリスクを負うこともなくなります。
配偶者居住権が成立するための条件
配偶者居住権が権利として成立するためには,以下の条件が必要となります。
(1)被相続人が亡くなった時点で,被相続人が所有する自宅に配偶者が居住していたこと。
→被相続人が死亡した時点で配偶者が自宅に居住していなければなりません。もし別居していたということであれば,自宅以外の生活の本拠が存在するということになるますので,配偶者居住権を認める必要がないからです。
(2)下記のいずれかにより配偶者居住権を取得すること
①被相続人が配偶者居住権を遺贈したとき
②遺産分割協議により配偶者が配偶者居住権を取得することとされたとき(遺産分割調停,遺産分割審判を含む)
③被相続人と配偶者との死因贈与契約において,配偶者居住権を取得することとされたとき
配偶者居住権の効果
配偶者居住権が認められた場合,以下の効果が生じます。
(1)被相続人の配偶者は,自己所有ではない自宅に無償で居住することができる。
→賃貸借契約と異なり,賃料の支払い義務はありません。ただし,下記のとおり必要費を負担しなければなりません。
(2)配偶者居住権を第三者に対抗するために,所有者に対して登記をするよう請求することができます。
→当事者の合意次第とはなりますが,一般的には配偶者側が登記費用を負担することになると思います。
一方,下記の注意点もあります。
(1)配偶者は自宅を維持するための必要費を負担する義務を負います。
→自宅に居住し続ける以上は,それに伴う費用は負担するのが当然だからです。
(2)配偶者居住権を第三者に譲渡することはできません。
→ 配偶者のみに認められた権利であるためです。
ポイントとしては,配偶者居住権は登記が対抗要件となっていることです。賃貸借契約は「引渡し」が対抗要件,つまり居住している事実そのもので第三者に対抗することができますが,配偶者居住権は,登記がされていないと第三者に対抗することができます。
上記のケースにおいて,配偶者居住権の登記をしない間にCさんが第三者に自宅を売却してしまうと,当該第三者からBさんは退去を迫られることになってしまいます。
配偶者居住権を取得する場合は,配偶者居住権の登記もセットになるかと思いますので,お気軽にご相談いただければと思います。
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