1月 04 2021
予備的遺言のススメ
当事務所では遺言書の作成のご依頼をお受けすることが多くありますが、ほとんどのケースで予備的遺言も書かれるようお願いしております。そうしないと、せっかくの遺言が無意味になったり、想定していた財産の承継が行われないことがあるためです。
今日は予備的遺言についてまとめたいと思います。
予備的遺言がない場合
遺言者であるAさん(夫)には妻Bさんと子Cさん、兄弟Dさんがいたとします。
特に遺言書が無ければ妻Bさんと子Cさんが1/2ずつ相続することになりますが、将来の財産の円滑な承継のために、Bさんも納得のうえでAさんのすべての遺産を子であるCさんが相続する内容の遺言書を書きました。なお、Aさん一家と兄弟であるDさんは疎遠になっており、数年に一度、年末年始に会う程度の関係性しかありません。
その後、もしAさんが亡くなったとすると、Aさんの財産は遺言の内容に基づきCさんがすべて相続することとなります。
もっとも、Bさんは法律上、Cさんに対して遺留分侵害額請求をすることができますが、Bさんも納得のうえの遺言なので、特に問題は起きないと思います。
しかし、仮にAさんが亡くなる前にCさんが亡くなってしまった場合はどうなるでしょうか。
この点、相続人ではなく遺贈の場合は、法律上無効になると定められているものの(民法994条)、相続人が先に亡くなった場合についての条文がありませんでしたが、最高裁判決により遺贈の場合と同様に遺言によって承継するはずだったBさんが先に亡くなってしまっているため、一部の例外を除き、亡くなった人が受け取る予定だった部分は無効になると判示しました。
したがって、上記の場合だとCさんが相続するという部分は無効になるため、結果として遺言書全体が無効になります。
そして、遺言が無かったという状況になりますので、妻であるBさんと疎遠になった兄弟であるDさんとの間で遺産分割協議をしていただく必要があり、協議の内容によってはAさんが想定していたものとは違う結論になってしまいます。
予備的遺言がある場合
上記の最高裁判決の説明で「一部の例外を除き」とあります。正確には、「推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には,当該「相続させる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係,遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから,遺言者が,上記の場合には,当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情」となります。
したがって、上記の例のCさんがAさんより先に亡くなった場合に備えて、別の条項を設けておけば良いということになります。
具体的には、「遺言者の死亡以前にCが死亡したときは、Cに相続させるとした財産はすべてBに相続させる。」というような記載しておけば、最高裁判決が言う特段の事情に当たりますので、この部分の遺言が有効になります。これを予備的遺言や予備的条項などと呼びます。
そして、予備的遺言があることによって、BさんがAさんのすべての財産を相続することとなりますが、Aさんの兄弟であるDさんには遺留分はありませんので、残されたBさんはDさんから遺留分侵害額請求を受けることもなく、Aさんの想定外の事態は起こらないこととなります。
なお、上記は遺言者の兄弟の場合ですが、子が複数いるような場合に先に子が亡くなったときにその子(遺言者の孫)が遺言書どおりに相続するわけではありませんので、子が複数いたり、代襲相続人がいるような場合にも予備的遺言は活用できると思います。
以上の次第で、遺言書を書かれる際は、財産を取得される方が先に亡くなるということもある程度は想定された上で進められた方が良いと思います。
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