12月 03 2013
権利証に関する誤解を解消してみよう!
先日,「権利証を紛失したので再発行したい。早くしないと権利が無くなってしまうので大至急やってほしい!」というご相談を電話でお受けしました。
結論としては,何か手続をしたわけではなく電話で簡単に説明させていただき,ご相談された方もご納得いただいて事なきを得ました。
ということで,権利証に関する誤解がかなりあると思いますので,権利証について書きたいと思います。
1 「権利証」という書類は無い
一般的には「権利証」だったり「権利書」と呼ばれている紙があります。
昔のものだと薄い和紙のタイプが多く,最後のページに下記ような大き目の印鑑が押してあると思います。
これは正式名称は「登記済証」というもので,平成17年以前は土地や建物を取得すると法務局という役所が発行してくれました。
ただ,平成17年に法改正があり,法務局によって時期はずれますが平成17年以降から順次「登記済証」ではなく「登記識別情報通知書」という書類が発行されるようになりました。
この登記済証等は所有権に限らず抵当権でも賃借権でも登記をすれば必ず発行されておりますが,特に所有権の登記済証のことを一般的には「権利証」や「権利書」と呼んでいます。
2 「権利証」と所有権はイコールではない
とある不動産の所有者が誰であるか。これを決定づける大きな要素が「登記」です。
この登記の内容については,法務局にて「登記事項証明書」を取得することで確認でき,登記事項証明書の所有者欄に記載されている方が原則として現在の所有者ということになります。
※現在は法務局に行かなくてもインターネットで登記の内容を確認することもできます。
インターネットで見られることからもわかるとおり登記の内容はすべてデータ化されており,そのデータは法務局にありますので,例え権利証を紛失したとしても登記の内容が勝手に変わるわけではありません。したがって,権利証を紛失したとしても不動産の権利を失うわけではありません。
ドラマなどで権利証を借金のカタとして持っていくシーンがありますが,権利証を持っていかれても所有権を失うわけではないので司法書士的にはちょっと意味不明な行為です。
似たような例として,預金通帳を紛失したとしても,それをもって預金が無くなることはありませんよね。カードがあればそれで引き出すことができますし,金融機関の窓口で本人確認等のうえ引き出すことも可能ですよね。
3 「権利証」が必要なのは不動産を担保に入れたり譲渡する場合だけ
上記のとおり,所有者であることを証明するのは権利証ではなく登記事項証明書となりますので,所有者であることを証明する必要がある場合は,法務局にて600円で取得できますので,こちらを提出することになります。よく必要になるケースとしては確定申告の時などですね。
では,この権利証が必要なのはいつかというと,所有している不動産について登記申請を行うときです。さらに言うと,すべてのケースで必要になるのではなく,不動産を担保に入れる場合や不動産を売却したり贈与したりするといった重大な場合に限られます。なので,そう頻繁に権利証を使う機会はありません。極論を言えば,不動産を購入し,その後,担保にも入れず,売却しなければ権利証があっても一度も使うことはありません。
4 紛失しても再発行されないけど印鑑証明書さえあれば登記はできる。
この権利証ですが,絶対に再発行されないことになっています。一度失くしてしまうと二度と作成することはできませんので大事に保管してください。
さて,不動産を担保に入れたり譲渡する場合には権利証が必要となりますが,権利証が無い場合でも権利証に代わる手続として3つの手段が用意されています。
過去に3つの手続について記載しておりますので,詳細はこちらをご覧ください。
なお,権利証があっても無くても必ず所有者の方の印鑑証明書+実印での押印が必要となります。これは代替手段がありませんので必ずご自身でご用意いただく必要があります。
私としては,正直なところ権利証よりも実印及び印鑑証明書の方が重要だと思っています。
というのは,上記の通り権利証については他の手段で代替することができますが,印鑑証明書は一切代替手段が用意されておりません。
なので,権利証を紛失してしまっても,実印や印鑑証明書が手元にあるのであれば,勝手に登記を変えられるということはありません。しかし,実印と印鑑証明書を紛失してしまった場合,他の代替手段を用いることによって第三者が登記を変えてしまうことは可能です(もちろん,そんなことをしたら犯罪です。その手続に関わった司法書士も犯罪です。)。
ということで,権利証を大事に保管していただくことは重要ですが,それ以上に実印と印鑑証明書(印鑑カード等)はしっかり保管されることをお勧めします。あまり実印を使う機会が無いのであれば,印鑑登録を廃止するというのも手だと思います。
5 不正登記防止申出
権利証を紛失した場合,法務局に対して「不正登記防止申出」をすることができます(不動産登記法第24条)。
これは,申出をした日から3か月以内に何らかの登記が申請された場合,所有者のもとに連絡が入ることになっています。
ただ,これはあくまで連絡が行くだけであって不正な登記が絶対に防止できるというわけではありませんし,有効期限も3か月しかありませんので,これをやっておけば大丈夫!という制度ではないと思います。
6 ご相談の回答
最初に戻り,「権利証を紛失したので再発行したい。早くしないと権利が無くなってしまうので大至急やってほしい!」というご相談についてですが,回答を端的に言うと,
「残念ですが権利証の再発行はできません。ただし,権利証が無くなっても権利が無くなるわけではありませんのでご安心ください。ただ,実印や印鑑証明書があれば名義を変えることができてしまいますので,その管理はしっかり行うようにしてください。」
ということになります。
すごく重要な書類ではあるけど,無くなってもどうにかなる権利証。でも失くすと大変なのでしっかり保管しておいてくださいね。
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