5月 21 2014
印鑑について
登記申請を行う際に,必ず依頼者の方からご印鑑をいただきますが,その際,認印でもOKなものもあれば,実印でなければならないものもあります。また,登記とは直接関係ありませんが,銀行印というものをお持ちの方も多いと思いますし,会社であれば社印というのもあったりします。
今日はこの印鑑についてまとめてみたいと思います。
印鑑そのものの違いではなく目的の違い
印鑑屋さんにいって,「実印・銀行印を作ってください」とお願いしても,「実印」や「銀行印」というものを作ってもらうことはできません。
実印というのは,「お住まいの役所において登録してある印鑑」の事を指します。つまり,もともと日常生活において認印として使っていた印鑑を役所にて登録すればその瞬間からその印鑑は認印から実印になります。
また,銀行印というのは,銀行に届け出ている印鑑ということになり,銀行の窓口でお金を引き出す場合には届け出ている印鑑が必要となります。
そして,それ以外の印鑑はすべて認印ということになり,認印については特に制限はありません。
なお,上記印鑑は別に分ける必要はありません。ですので,日ごろ使っている印鑑を役所にて登録すれば認印兼実印ということになりますし,さらにその印鑑を銀行に届け出れば認印兼実印兼銀行印ということになります。
ただし,その場合はその印鑑を紛失した場合は,すべての登録・届出についてやり直さなければなりませんし,万が一盗難にあった場合には,大変なことになる可能性がありますので,一般的には認印,実印,銀行印と別の印鑑をそれぞれ使っていることが多いと思います。
実印として登録できる印鑑,登録できる人
実印については下記のような登録の制限があります。
【実印として登録できない印鑑】
「氏名」「氏または名」「氏と名の一部の組み合わせ」以外の物
→例えば,ペンネームとかあだ名が彫られた印鑑を登録することはできません。
氏名以外に職業その他の事項を表しているもの
→私は仕事上,「司法書士 淵真一郎」と彫られた印鑑を使いますが,これは私個人の実印としては登録できません。
印影が過剰に小さいまたは大きい(8mm四方を下回る、または25mm四方に収まらない)もの
→逆に言えば,収まるものであれば良いので,丸い印鑑でなくても構いません。
【印鑑登録ができない人】
15歳未満の人
→あくまで15歳未満の人が登録できないというだけですので,15歳になったら印鑑登録をしなければならないというわけではありません。むしろ,安全のために実印(印鑑証明書)が必要な時だけ登録し,それが終わったら登録を抹消する方もいらっしゃいます。
成年被後見人
→実印を使うような大事な取引は代理人である成年後見人が行うからです。
ちなみに,印鑑とは直接関係ありませんが,遺言が書けるようになる年齢も15歳からです(民法961条)。
認印もあなどれない
手続上,実印でなければならないものについてはもちろん実印が必要になります。例えば,不動産の売買を行う際,必ず売主さんは実印が必要になります。これは不動産の名義を失うことになりますので,権利証という大切な書類に加えて,間違いなくご本人が手続に関与していることを証明するために実印をご捺印いただけなければならないことになっています。逆に,不動産の買主さんについては,名義を得る方になりますので実印までは要求されていません(もちろん,ご本人さんの関与が不要というわけではありません。)。
しかしながら,必ずしも実印でなくても良い場合にも実印を押すことが多々あります。
例えば,住宅ローンでお金を借りる時の「金銭貸借消費契約書」について,まず間違いなく実印を押すことになっていますが,法的には実印でなくても構いません。では,なぜ実印でご捺印いただくかというと「証拠力」の観点からです。
同じ契約書でも実印+印鑑証明書がある場合と認印の場合とでは,その契約に本当に本人が関与したのかの信用度が違いますよね。認印に決まりはありませんので,第三者が勝手に三文判を買ってきて認印が押してあることだってあると思います。しかし,実印はしっかりご本人が管理しているはずですし,印鑑証明書は役所から交付された印鑑手帳(印鑑カード)がなければ取得することができませんので,本人が関与したという高度な証拠力が認められます。
友人間でのお金の貸し借りだと数万円から数十万円程度ですので,実印まで求める必要はないかもしれませんが,住宅ローンとなると数千万円単位となり,万が一にも他人が契約していたら困りますので実印を求められることが一般的ですね。
もっとも,認印だからといってまったく効力がないかというと全然そんなことはありません。
民事訴訟法上の用語で「二段の推定」という言葉があります。
端的に言えば,「本人の印鑑が押してある書面は本物(真正)の書面であると推定される」というものです。つまり,例え押してある印鑑が三文判だったとしても,自分の印鑑が押されている書面が勝手に作成されている場合でも自分が作成したものでないことを立証しなければ裁判上は本物だということになってしまいます。かなり恐ろしいですよね・・・。
ということで,実印を保管するのも大事ですが,日ごろ使っている認印も場合によっては悪用されてしまう可能性はありますので,やはり管理はしっかりしなければなりませんね。
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