6月 17 2015
遺贈に関する注意点
遺言によって自分の財産を誰かに譲渡することを遺贈(いぞう)と言います。
この遺贈なんですが,相続と同じように財産を譲渡するってことだけなのですが,実はこれを現実化する(不動産の名義を変える)ためには,ちょっと手間だったり,場合によっては遺言書があるのに大変な苦労をしなければならないような場合があります。
今回はそのような遺贈における落とし穴に対する注意点についてまとめたいと思います。
遺贈と相続
まず,遺贈と相続の違いですが,遺贈というものは「遺言にて誰かに財産を譲渡する」というものであり,遺贈を受ける人(これを「受遺者」と言います。)は誰でもいいです。相続人はもちろんのこと,まったくの第三者でもいいですし,自然人ではなく会社のような法人でも構いません。
一方,相続というものは,遺贈と同じように亡くなった方の遺産を承継する制度ですが,相続は文字通り相続人しか受けることができませんし,相続人でありさえすれば,遺言書が無くても法律の規定により遺産を相続することができます。
ということで,結婚をしていない内縁の配偶者に財産を残したい場合のように相続人以外の人に財産を残したい場合は必ず遺言書を書く必要がありますが,相続人に残したい場合は必ずしも遺言書が必要だというわけではありません。
遺贈なのか相続なのかわからないとき
専門家が遺言書の作成に関与する場合は,誤解がないような文言で作成しますのであまりトラブルが起こることはありませんが,専門家の関与なしで作成された場合,どのような意味なのかわからないことがあります。
不動産の所有者であるAさんが亡くなり,内縁の妻(婚姻届を出していない)であるBさん,AさんとBさんとの間の子どもであるCさんとDさんがいたとします。
例えばAさんが,「私所有の甲土地を相続人である子どもCに相続させる」と書いてあれば,子どもであるCさんに甲土地を相続させる趣旨なんだということがわかります。簡単ですね。(※一部誤記があり,ご指摘をいただきましたので修正いたしました。大変失礼いたしました<(_ _)>)
また,「私所有の乙土地を妻Bに相続させる」と書いてある場合,Bさんは法律上の妻ではないことから相続することはあり得ないので,「Bに相続させる」の部分は「Bに遺贈する」という趣旨であると解釈して進めることになります。
ところが,「私所有の丙土地を子どもであるDに譲渡する」となっていた場合はどうでしょう。相続人であるDさんは丙土地を相続することもあり得ますし,遺贈されることもあり得ますので,「Dに譲渡する」は相続させるという趣旨なのか遺贈するという趣旨なのかわかりません。もっとも,相続だろうが遺贈だろうが,Dさんは丙土地をもらえることには変わりはないんですからあまり問題ないように思えます。確かに,丙土地の所有権を取得するという意味では同じです。しかし,相続か遺贈かによって登記手続に大きな違いが出てきてしまうんです・・・。
相続の登記と遺贈の登記
相続登記(相続を原因とする所有権移転登記)と遺贈登記(遺贈を原因とする所有権移転登記)では,端的に言うと,単独申請か共同申請かという差になり,それにともない権利証(登記識別情報通知書)が必要か不要かという問題に繋がります。
まず,相続登記の場合,これは相続を受ける方が単独で申請できることとなっており,他の相続人の関与は不要です。したがって,上記例にあるように「私所有の甲土地を相続人である子どもCに相続させる」という遺言がある場合は,Cさんは,亡くなったAさんの戸籍謄本及びAさん遺言書があれば他の相続人であるDや内縁の妻であるBの関与なく,Cさんひとりで登記申請ができます。
一方,遺贈の登記の場合は共同申請となるため,相続人全員の印鑑証明書と実印,さらに権利証が必要となります。
上記の例の「私所有の乙土地を妻Bに相続させる」という遺言がある場合,Bさんは自分ひとりで登記手続きをすることはできず,CさんとDさんの印鑑証明書や実印,さらにはAさんが乙土地を取得した際の権利証まで必要になってきます。
特に家族関係にトラブルがなければ良いのですが,もし,BさんとC&Dさんとの仲が悪かった場合,Cさん及びDさんが登記手続に協力しない可能性は多分にありますよね。さらに,Aさんが乙土地を取得したときの権利書の在り処をBさんが把握していなかった場合も困りますよね・・・。
最後に,上記例の「私所有の丙土地を子どもであるDに譲渡する」という場合,これは相続ではなく遺贈で登記をすることになっています。とすると,「譲渡する」が「相続させる」になっていれば,DさんはAさんの戸籍謄本と遺言書があれば自分ひとりで登記できたのに,「譲渡する」となっていたばかりに,Cさんの印鑑証明書と実印,さらにはAさんが丙土地を取得した際の権利証まで必要になってきます。Cさんが協力してくれれば良いですし,権利証もすぐに見つかれば良いのですが,もしそうでなかったら非常に困りますよね。
困ったときの対処法
上記のとおり困った事態に陥ってしまった場合でも,まったく登記できないという訳ではなく,ちゃんと解決方法はあります。
1 遺贈の登記に相続人が協力してくれない場合
この場合,相続人全員を被告として登記手続への協力を求める訴訟を提起することになります。遺言書がある以上,遺言書が無効などの事由が無い限り,相続人には登記義務がありますので,勝訴する可能性が高いケースが多いと思います。裁判で勝訴した場合は,相続人の実印や印鑑証明書のみならず権利書についても不要となり,判決書(判決正本+確定証明書)があれば登記が出来てしまいます。
2 遺贈の登記に相続人は協力してくれるが権利証が見つからない場合
この場合,事前通知や弁護士または司法書士による本人確認情報を作成することで登記申請は可能です。事前通知等についてはこちらをご覧ください。
遺贈をするときは遺言執行者を選任しましょう
遺贈の場合における一つの良い方法としては,遺言執行者を選任するという方法が考えられます。
遺言執行者というのは,遺言書に書かれた内容を実現するために選任される人であり,受遺者自身も遺言執行者になることができます。
上記の例でいうと,内縁の妻であるBさんに乙土地を残したい場合は必ず遺贈になりますので,Aさんとしては,「乙土地をBに遺贈する」という内容に加えて,「Bを遺言執行者に選任する」と書いておけば,印鑑証明書や実印が必要となるのは,C&DではなくBのものということになりますし,仮に権利書が無い場合の手続もBさんが行えば良いので,トラブルを回避できると思います。
なお,遺言執行者には,弁護士や司法書士といった専門家がなることもできますので,たくさんの不動産をお持ちであり,いろんな人に遺贈したいというような場合には,専門家を選任しておくというのも一つの手だと思います。
最後に
前にも書いておりますが,遺言書というのは,亡くなった方の最後の遺志を実現する大事な行為ではありますが,要式が厳格に定められており,せっかくの遺言が無効になってしまうことがあります。また,無効にならなくても,内容が不明確だったりすると,それが原因で相続人間で争いが生じてしまうことがあります。上記の「譲渡する」なんかがまさにそうですよね。
したがって,遺言書を作成される際は,お近くの弁護士,司法書士等にご相談されることを強くおススメいたします!
コメントは受け付けていません。