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相続に関すること

9月 19 2023

相続登記義務化の事務の取り扱いについて

過去に記事にさせていただいたとおり、令和6年4月1日から相続登記が義務化されます。

→ 相続登記の義務化
 

実際に義務化された場合に具体的な事務を取り扱うのは法務局になりますので、法務局の事務の取扱いを確認しておくことは大変有意義だと思われます。

先週、法務省から法務局に対する事務取扱の通達がありましたので、この点についてまとめたいと思います。

→ 令和5年9月12日民二第927号(PDF)
 

 
 

1 基本的な点

 

相続登記義務化の基本となる点についてのまとめとなります。

(1)とある不動産の所有者について相続が発生し、自身が相続人であり、かつ、当該不動産を相続により取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する義務がある。
 

(2)相続登記の申請ができない場合であっても、自身が相続人であることを申告することでも良い。
 

(3)相続人が遺言により取得することになった場合も同様である。
 

(4)相続人による遺産分割協議が成立した場合は、その成立した日から3年以内に相続登記を申請する義務がある。
 

(5)代位や嘱託によってされた場合には適用しない。
 

(6)義務に違反した場合は10万円以下の過料という罰金のようなものを課される可能性がある。
 

(7)令和6年4月1日以前に生じた相続にも適用があり、すでに(1)や(4)の条件を満たす場合は令和9年3月31日までに相続登記を行う義務がある。 
 

2 過料の手続

 

上記(6)に記載のとおり、義務に違反した場合には過料が課される可能性があります。

通達によれば、次のような流れです。
 
 

(1)法務局の職員が義務違反を見つける。

・遺言書(または遺産分割協議書)を添付してなされた相続登記を受け付けたところ、法務局の職員が遺言書(または遺産分割協議書)に、まだ申請していない不動産が記載されていることを見つけた

ということは、この通達だけで判断すると、逐一法務局が調べるわけではなく遺言書や遺産分割協議書によってたまたま見つけたときにだけ催告が行くことになると思われます。

 

(2)相当期間内に相続登記をするよう相続人に通知を出す。

・「相当期間」が具体的にどれほどの期間になるのかは不明ですが、数日ということは考えにくいので、数か月程度になるのではないかと思います。

 

(3)正当な事由が無いのに相当期間内に相続登記がされない場合は、法務局から裁判所に対して過料の処分をするよう通知を出す。

・「正当な事由」の具体例 → 相続人が多過ぎてすぐには申請できない、遺言の有効性や相続財産の範囲について争われている重病等で申請できない、DV等で避難していてすぐには申請できない、経済的に困窮していて費用が用意できないなど

 

(4)裁判所から過料を納めるよう書類が届く

基本的には過料の通知が届いたら納めていただくことになると思いますが、過料処分の理由がおかしいなどの場合は、通知が届いてから1週間以内であれば裁判所に対して異議申し立てを行うことも可能です。
 
 
 

まだ改正法が施行されるまでに半年程度ありますので、今後も情報が出次第まとめていきたいと思います。

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9月 13 2023

相続登記で被相続人の住所が繋がらない

相続登記のご依頼をいただくことが多いのですが、相続登記で大事なこととして、「戸籍謄本に記載されている被相続人と登記簿に記載されている所有者が同一人物である」ということを証明する必要があります。

ただ、この同一人物であることを証明するのに楽な場合と大変な場合がありますので、状況に応じてまとめたいと思います。

1 登記簿上の住所と本籍地が同一

 
例えば、土地を所有されていたAさんがお亡くなりになり、Aさんの相続人名義に登記をしたいとします。

この場合、登記簿を確認すると「名古屋市〇〇区〇〇町1番地 A」と登記されていました。このAさんが亡くなったことを証明するためにはAさんの戸籍謄本が必要になりますが、戸籍謄本の本籍地が「名古屋市〇〇区〇〇町1番地」となっており、Aさんが死亡した旨の記載があれば、これだけで同一人物であるという事を証明できます
 
本来、登記簿上の住所と戸籍謄本に記載されている本籍地には関係が無いのですが、昔は本籍地と住所地が同一であったため追加の書類は不要になっているのだと思います。

 
 

2 登記簿上の住所と本籍地が異なるが住所は同一

 

登記簿を確認すると「名古屋市〇〇区〇〇町1番地 A」と登記されていました。このAさんが亡くなったことを証明するためにはAさんの戸籍謄本が必要になりますが、戸籍謄本の本籍地が「長久手市〇〇町1番地」となっていた場合、これだけでは登記簿上のAさんと戸籍謄本のAさんが同一人物であるかどうかは分かりません。
この場合、Aさんの住民票除票(本籍地の記載有り)を取得します。もし、ここに最後の住所として、「名古屋市〇〇区〇〇町1番地 A」と記載されていればこれで大丈夫です。

 

つまり、
(1)戸籍謄本を見れば、本籍地が「長久手市〇〇町1番地」であるAさんが死亡したことが分かる。
(2)除票を見れば、本籍地が「長久手市〇〇町1番地」であるAさんの住所は「名古屋市〇〇区〇〇町1番地」であることが分かる。
(3)登記簿を見れば、住所が「名古屋市〇〇区〇〇町1番地」のAさんが所有していることが分かる。
ということで、登記簿上のAさんと戸籍謄本に記載されているAさんが除票を介して同一人物であるということを証明できます。
 
 

3 登記簿上の住所と本籍地が異なるうえ住所も異なる

 

上記と同様に、登記簿を確認すると「名古屋市〇〇区〇〇町1番地 A」と登記されていました。このAさんが亡くなったことを証明するためにはAさんの戸籍謄本が必要になりますが、戸籍謄本の本籍地が「長久手市〇〇町1番地」となっていた場合、これだけでは登記簿上のAさんと戸籍謄本のAさんが同一人物であるかどうかは分かりません。

Aさんの住民票除票(本籍地の記載有り)を取得して確認したところ、最後の住所は「長久手市〇〇町1番地」となっている場合、除票でも繋がらないことになります。
この場合は、まずは除票に記載のある「前住所」を確認します。もしそこに「名古屋市〇〇区〇〇町1番地」と書かれていれば、「名古屋市〇〇区〇〇町1番地」のAさんが転居して「長久手市〇〇町1番地」に変わったという事が分かりますので、これで大丈夫です。
 

つまり、
(1)戸籍謄本を見れば、本籍地が「長久手市〇〇町1番地」であるAさんが死亡したことが分かる。
(2)除票を見れば、本籍地が「長久手市〇〇町1番地」であるAさんの以前の住所が「名古屋市〇〇区〇〇町1番地」であったことが分かる。
(3)登記簿を見れば、住所が「名古屋市〇〇区〇〇町1番地」のAさんが所有していることが分かる。
ということで、登記簿上のAさんと戸籍謄本に記載されているAさんが除票を介して同一人物であるということを証明できます。
 

なお、Aさんが「名古屋市〇〇区〇〇町1番地」→「日進市〇〇町1番地」→「長久手市〇〇町1番地」と転居を繰り返している場合、長久手市の除票の前住所を見ても日進市の住所しか出てきません。この場合は、さらに日進市役所で除票を取得すれば、その前住所として「名古屋市〇〇区〇〇町1番地」が出てきますので、すべての除票があれば証明できます
さらに、住所の変遷は住民票除票ではなく戸籍の附票でも調べることもできますので、除票で繋がらない場合は、戸籍の附票の調査をしてみるということもあります。

 
 

4 登記簿上の住所と本籍地が異なるし住所も異なるうえに証明書も出ない

 
登記簿上の住所と本籍地が異なる場合は上記のとおり住民票除票や戸籍の附票が必要になります。この除票等について、法改正により現在は保存期間が150年とされておりますが、数年前まで除票等の保存期間が5年と定められておりましたので、死亡や転居から5年程度経過してしまうと除票や戸籍の附票が取得できないという事があります。
 

例えば、名古屋市の場合だと平成26年3月31日以前に死亡や転居などにより除票になった方については保存期間の経過により除票や戸籍の附票を取得することができません
→ 除票
→ 戸籍の附票
 

ただし、役所によっては必ずしも5年経過によって廃棄しているとは限らないため、まずは役所に確認をされた方が良いと思います。
さて、除票等で同一人物であることを証明できないとなると別の方法で同一人物であることを証明しなければなりません。
この場合、当該不動産の権利書があれば除票等が無くても同一人物であると判断してもらえます。というのは、権利書というものは不動産の所有者以外の人が所持していることは通常は考えられないため、登記申請に権利書を添付してきたという事は、その不動産の所有者の相続人が関与していることが強く推認できるからです。
もっとも、不動産を取得されたのが数十年前であるという場合、権利書を紛失しているという事もかなりあります。
この場合は、下記の書類のうちの1通または複数を提出することで相続登記が認められますが、どの書類が必要になるかは各法務局によって判断が異なりますので、必ず事前に確認をする必要があります。私の経験上は①と②をセットということが多いですが、それに加えて③~⑤から1点ということもあります。

①相続人全員が「登記簿上の所有者が戸籍謄本に記載されている被相続人と同一人物であること」を記載した上申書+相続人全員の印鑑証明書
②登記簿上の所有者に関する不在籍証明書・不在住証明書
③固定資産税の納税証明書数年分(年数はケースバイケースですが3年分ということが多いです。)
④被相続人が名宛人となった固定資産税の納税通知書
⑤除票等が廃棄されていて発行できない旨の証明書


 

ということで、登記簿上の所有者の住所と戸籍謄本の本籍地が統一である場合、または登記簿上の所有者の住所と除票の住所が同一である場合は比較的スムーズですが、いずれも異なる場合はその調査に大変苦労する場合があります。
以前まとめたとおり、令和8年から転居された場合は、所有する不動産についての住所変更登記申請が義務になっておりますので、転居をされた際には必ず住所変更登記もされますようお願いいたします。

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7月 28 2023

住所・氏名変更登記の義務化の日が決まりました

相続登記の義務化が来年に迫ってきておりますが、住所及び氏名が変更した場合の変更登記の義務化についても法律の施行日が決まりました。

まず、法律の施行日は、令和8年(2026年)4月1日となります。

その他、注意点は次のとおりです。 

 

1 住所の変更のみならず、氏名の変更(婚姻・離婚・養子縁組など)の場合も登記が必要です。
 

2 変更してから2年以内に変更登記の申請を行う必要があります。
 

3 施行日である令和8年4月1日よりも前に住所や氏名を変更している場合も適用があります。その場合は、施行日の2年後である令和10年3月31日までに申請が必要です。
 

4 自宅のみならず、所有しているすべての不動産について変更登記の申請が必要です。
 

5 変更から2年以内に変更登記を申請しなかった場合は、5万円以下の過料という罰金のようなものを課される可能性があります。
 

 

前住所が登記されており、新しい住所に転居した場合は住民票があれば大丈夫ですので、申請自体はそんなに難しくないと思います。

しかし、数十年レベルで住所変更登記をしていない場合は、住民票では住所が繋がらない可能性がありますので、そのような場合はお近くの司法書士にご相談いただいた方が良いかと思います。

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4月 27 2023

相続土地国庫帰属制度が始まります

先日簡単にまとめました相続土地国庫帰属制度が本日から始まります。 

相続土地国庫帰属制度について 


 
 

先日、簡単にまとめておりますが、大事なこととしては次のとおりです。
 

1 相続または遺贈によって取得した土地であること

2 無償で引き取ってくれるわけではなく一定の費用がかかること

3 土地の状況によっては引き取ってもらえないこと
 

となっております。
 

まず、1については、あくまで相続をきっかけとして取得した土地で無ければなりませんので、売買等で取得した土地は対象になりません。例えば、数十年前に流行った別荘地などをお持ちの場合、通常は売買で取得されていると思いますので対象になりません。もちろん、そのような土地を相続にて取得されているのであればこちらの制度は利用可能です。また、建物は含まれておりません(建物を解体しておく必要があります。)
 

2については、10年分の管理費用として最低でも20万円以上の費用がかかるうえ、申請時点で審査手数料として14000円の費用がかかります。さらに、手続を司法書士等にご依頼いただく場合はその報酬もかかります。
 

3については、定期的に伐採する必要がある竹林、熊などの鳥獣が生息する場所については引き取ってもらえません。
 
 

したがって、触れ込みとしては「不要な土地を国が引き取ってくれる」となっておりますが、実際にはかなりハードルが高いものと思われますので、手続をお考えいただく場合には要件を慎重にご検討いただく必要があると思います。

とはいえ、これまでは国が土地を引き取ってくれるという制度はありませんでしたので大きな一歩かと思います。

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1月 25 2023

障害がある方の遺言作成について

先日、聴覚に障害がある方の公正証書遺言作成について関与をさせていただきましたので、今回は聴覚や視覚などの身体障害や精神障害がある方の遺言書の作成についてまとめてみたいと思います。

なお、一般的によく利用される自筆証書遺言と公正証書遺言についてであり、秘密証書遺言や危急時遺言などの例外的な方法については記載しておりません。
 


 
 

1 精神障害について

 

遺言書を作成する場合、その時点で遺言能力(意思能力)が必要となります(民法963条)。

遺言能力とは、端的に言えば「遺言の内容について理解できること」となり、形式的に15歳未満の方は遺言能力は無いとされており(民法961条)、精神障害や認知症等によってご理解いただくことが難しい場合も遺言能力は無いとされています。

もっとも、一律に障害があるからダメだというものではなく、あくまでご本人の状況次第となりますので、精神障害や認知症等の方であっても遺言の内容が理解できるようであれば遺言書の作成は可能です。
 

なお、成年被後見人の方については、遺言の内容を理解できる状況にあり、かつ、医師2名以上の立会いという条件があるものの、成年被後見人ということをもって遺言書の作成が否定されるものではありません民法973条)。また、被保佐人や被補助人の方については、作成できるのはもちろんのこと医師の立会い等も不要です(作成時において遺言能力があることは必要です。)。

ちなみに、私は数名の方の成年後見人に選任されておりますが、これまでに遺言書の作成をしたことはありません。 
 

2 身体障害の場合

 

身体障害がある方の場合においても、上記の遺言能力があることが当然の前提となります。
 

(1)自筆証書遺言

自筆証書遺言は、文字通り「自筆」で遺言書を書く必要がありますので少なくとも文字を書ける必要がありますが、それさえクリアできれば障害は問題となりません

視覚障害があっても自筆で書ければ大丈夫ですし、聴覚障害については一切問題にならないと思います。また、利き手が障害等によって文字を書くのが困難であったとしても、読める字であれば利き手ではない方で書いていただいて大丈夫です。
 

一方、手が震える等の理由により、いわゆる添え手で作成された場合は「自筆」とは言えない可能性があるため、無効になる恐れがあります。

この点についての裁判例として、最判昭62年10月8日があります。

→ 最高裁サイト

→ 判決全文(PDF)
 

上記判決においては、添え手においての自筆証書遺言が有効になるための要件として、3点を挙げています。

遺言者が証書作成時に自書能力を有していること。
他人の添え手が、単に始筆若しくは改行にあたり若しくは字の間配りや行間を整えるため遺言者の手を用紙の正しい位置に導くにとどまるか、又は遺言者の手の動きが遺言者の望みにまかされており、遺言者は添え手をした他人から単に筆記を容易にするための支えを借りただけであること。
添え手が右のような態様のものにとどまること、すなわち添え手をした他人の意思が介入した形跡のないことが、筆跡のうえで判定できること。
つまり、文章の始めや終わりなどの部分に第三者が本人の手を移動させてあげることは問題ありませんが、文章を書く際に第三者の意思が介入した形跡が少しでもある場合は無効になってしまうことになります。
上記最高裁の事例においては、第三者が第三者が支えを借りただけではなく積極的に書いたものであるとして無効と判断しています。

 

「本件遺言書には、書き直した字、歪んだ字等が一部にみられるが、一部には草書風の達筆な字もみられ、便箋四枚に概ね整つた字で本文が二二行にわたつて整然と書かれており、前記のようなD(遺言者)の筆記能力を考慮すると、E(第三者)がD(遺言者)の手の震えを止めるため背後からD(遺言者)の手の甲を上から握つて支えをしただけでは、到底本件遺言書のような字を書くことはできず、D(遺言者)も手を動かしたにせよ、E(第三者)がD(遺言者)の声を聞きつつこれに従つて積極的に手を誘導し、E(第三者)の整然と字を書こうとする意思に基づき本件遺言書が作成されたものであり、本件遺言書は前記②の要件を欠き無効である」

 

そして、遺言無効の訴訟が起こされた場合、有効だと主張する側が有効であることを立証しなければなりませんので、かなり大変だと思われます。
したがいまして、添え手での遺言書作成はかなりリスクが高いため、自筆証書遺言ではなく次の公正証書遺言を推奨いたします。

 
 

(2)公正証書遺言

公正証書遺言の場合、遺言者が自分の手で書くのではなく、公証人に対してどのような遺言を作成したいのかを伝えられれば良いということになりますので、基本的には遺言者が口頭で公証人に遺言の内容を伝え、公証人が遺言者に対して読み聞かせ、または閲覧させたうえで遺言者が承認したあとに、遺言者と証人が署名押印することで公正証書遺言は完成いたします(民法969条)。
私どもが関与させていただく際には、事前に遺言者の方からご希望を伺い、公証人と事前に打ち合わせをしたうえで、案文を作成してもらったうえで、遺言者の方に確認していただいてから公証役場を訪ねることになりますので、実際に公証役場において遺言者が口頭で公証人に全部を伝えるという事は少なく、確認のために大枠だけ伝えることが多いかと思います。

 

さて、上記のとおり遺言者が口頭で伝えるとなっておりますので、聴覚障害等により口頭で遺言の内容を伝えることができない場合があります。また、最後に署名押印が必要になっているので、身体傷害がある場合に署名ができない場合があります。

 

この点、前者の口頭の部分については、法改正により手話等にて通訳人に伝えてもらうこともできますし、遺言の内容を自書するという事も可能になっており、公証人の読み聞かせについても通訳を介することができるようになりました(民法969条の2)し、内容を閲覧してもらう方法でも大丈夫です。なお、推定相続人は立ち会えないので、推定相続人以外の方が通訳人になる必要があります。

 
 

また、後者の署名押印については、身体障害等の理由により署名ができない場合は、その旨を公証人が記載すれば遺言者の署名押印は不要となっております(民法969条4号ただし書)。

 
 

最初に記載したとおり、先日関与させていただいた公正証書遺言については聴覚障害の方であったため、遺言の趣旨を自書していただいて無事終えることができました。
一般的な公正証書遺言の場合は、遺言書の始まりは、「遺言の趣旨の口述を筆記し」となっています。

 
 

 

しかし、今回の場合は「遺言者は口がきけないため、その自書した遺言の趣旨を筆記し」となっています。

 
 

 

また、上記とは直接関係ありませんが、病院等で入院されていらっしゃる場合においても、公証人に病院等まで来ていただいて公正証書遺言を作成することは可能です。以前、足が不自由な方の遺言を作成するに当たり、公証人に遺言者のご自宅まできていただいたことがあります。
ただし、出張に関する日当がかかりますので、通常の公証人の手数料の1.5倍程度の費用がかかってしまいます。

 

このように、仮に障害をお持ちの方であっても遺言書を作成することは可能ですので、作成をお考えの方はお問い合わせいただければと思います。

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1月 13 2023

令和5年4月から施行される民法改正等のまとめ③

令和5年4月1日から不動産登記法の改正により、遥か昔の権利(所有権以外)に関する登記が残っている場合に抹消する方法が簡略化され、権利者(一般的には不動産の所有者)が単独で申請できるようになりました。また、抹消ではありませんが、遺贈の登記に関して単独で申請できる場合が定められました。今回は、この点についてまとめたいと思います。

 
 

1 遥か昔の権利(所有権以外)に関する登記とは

 

不動産の登記簿をご覧いただくと、所有者が誰であるかということが登記されています。所有者が変わっても自動的に所有者が変更されるわけではないため、当事者が登記申請を行い、その時点での所有者を登記して第三者に対抗できるようになります。この登記をしないまま長い月日が経過して実際の所有者が分からないことが大きな問題になっており、それに対応したのが前回の相続土地国庫帰属制度の記事となります。
 

さて、登記簿を見ると、所有者が誰であるかという事以外にもいろんなことが登記されている場合があります。例えば、住宅ローンを組まれて不動産を購入されている場合は、「抵当権」という権利が設定されており、金融機関の担保になっていることが分かります。また、それほど多くはありませんが、第三者に賃貸等をしている場合は「賃借権」の登記や「地上権」の登記がされている場合があります。

こちらも当事者が登記申請をしなければ登記されませんし、逆に権利が無くなった場合(抵当権であれば住宅ローンを完済した場合、賃借権であれば賃貸借契約が終了した場合、など)も自動的には登記は抹消されないため、当事者が抹消登記の申請をする必要があります。

また、登記制度は遥か昔から存在するため、明治時代のお金の貸し借りでも抵当権が設定されることがありました。その後100年以上経過し、本当は完済しているけど登記申請を忘れているのか、完済しないまま時が過ぎてしまっただけのかは分かりませんが、明治時代の抵当権が現代まで抹消されずに残っていることがあります。これが、「遥か昔の権利(所有権以外)に関する登記」となります。
 

そもそも、登記というのは当事者が協力して手続をしなければならず、当事者が亡くなっている場合は基本的に相続人全員が関与する必要があります。

しかし、100年以上も前の登記だと、恐らく登記の名義人はすでに亡くなっていると思われますし、その相続人を探すことも大変です。加えて、相続人が見つかったとしてもその相続人が協力してくれるかどうかも分かりません。

普通に使っている分には遥か昔の登記が残っていたとしても特に支障は無いかもしれませんが、第三者に売却等をする場合には大きな問題になります(遥か昔の登記が残っている場合、一般的には抹消しなければ売却ができません。)。

ということで、遥か昔の登記が残っているとかなり厄介なことになります。 
 

2 抵当権等の担保権については制度がある

 

当事務所でもページを設けているとおり、抵当権等については比較的簡単に抹消できる場合がありますので、こちらをご覧いただければと思います。

→ 遥か昔に登記された抵当権抹消登記(休眠抵当権) 
 

3 抵当権等の担保権以外の登記

 

すでに存続期間が満了している地上権等の登記買戻期間が満了している買戻登記については、権利者(一般的には不動産の所有者)が単独で抹消できることになりました。
 

以下、各ケースに関して記載いたします。
 

(1)存続期間満了済みの地上権等

必ずしも存続期間が定められている訳ではありませんので、すべての地上権等が該当するわけではありませんが、存続期間が登記されており、かつ、その期間が満了している場合は比較的簡略的に抹消することが可能となりました。
 

手続の流れとしては概ね以下のとおりとなります。

①存続期間が登記されており、かつ、すでに経過していることを確認する。

→登記事項証明書を見ればすぐに分かります。存続期間が登記されていないようであれば残念ですがこちらの制度は使えません
 

②地上権者の調査を行う。

→具体的には地上権者の住民票等の書類上の調査を行う必要がありますが、現地調査までは必要ありません。もし、ここで地上権者等の所在が判明するようであれば簡略的な手続ではなく、通常どおり当事者双方が協力して登記申請を行うことになりますし、万が一協力してくれない場合は訴訟を行う必要があります。
 

③裁判所に公示催告の申立てを行い、除権決定を得る。

→難しそうな感じがしますが、裁判所に対して「地上権を抹消しようとしているので、異議がある人は連絡してくださいね。」という趣旨の官報公告を行うことになります。そして、一定期間が経過すると除権決定が出て抹消することができるようになります。
 

④登記申請

→上記の除権決定を添えて、権利者が単独で登記申請を行うことになります。
 
 

(2)買戻期間満了済みの買戻権

買戻権というのは、いったん売却をするけど、一定期間内であれば買い戻すことができる権利です。最近はあまり見ませんが、昭和や平成初期の売買の際の住宅供給公社等の公社が関係している場合に登記されているのをよく見ます。

さて、この買戻権は特に期間を決めなければ売買契約の日から5年間とされており、当事者の合意によっても最大で10年間とされています。とすると、売買契約の日から10年以上経過している場合は必ず買戻権は消滅していることになりますので極めて簡単に抹消することができます。

※上記の地上権等については存続期間の上限はありませんので、存続期間が定められていたとしてもその後に延長されている場合があります。
 

手続の流れとしては概ね以下のとおりとなります。

①買戻権が登記されており、かつ、売買の日から10年が経過していることを確認する。

→登記事項証明書を見ればすぐに分かります。
 

②登記申請

→権利者が単独で登記申請を行うことになります。
 

③買戻権者への通知

→まったく買戻権者が関与しないところで抹消されてしまうため、買戻権者宛に法務局から抹消した旨の通知がなされます。
 

上記の地上権等の抹消と異なり、権利者の調査や公示催告等の手続も一切不要ですので、極めて簡単に抹消することができます。 
 

4 解散した法人が抵当権等の担保権者の場合の特例

 

上記2のとおり、抵当権等については比較的簡略的に抹消できる特例がありますが、さらに解散した法人が抵当権者等の場合の抹消登記の特例ができました。

解散した会社であっても、清算人という方が存在するはずですので、通常はその清算人に協力してもらって抹消登記を申請することになります。しかし、清算人が行方不明だと協力を得ようがありませんし、清算人が亡くなっているような場合だと裁判所に清算人を選任してもらうなどかなり大変な手続が必要でしたが、今回の改正により比較的に簡略的に抹消が可能であり、さらに従前の特例と異なり供託しなくても良いというメリットもあります。
 

手続の流れとしては概ね以下のとおりとなります。

①抵当権等の担保権が登記されており、かつ弁済期から30年以上が経過していることを確認する。

→不動産の登記事項証明書で確認をします。
 

②抵当権者等が解散されてから30年以上経過していることを確認する。

→法人の登記事項証明書で確認をします。
 

③清算人の調査

→法人の登記事項証明書を見れば清算人が誰であるか住所氏名が登記されていますので、清算人の調査を行います。ただし、住民票等の調査のみで大丈夫であり、現地調査までは不要です。もし、清算人が見つかれば、通常どおり共同で申請を行うことになり、万が一協力してもらえない場合は訴訟等他の方法を検討することになります。
 

④登記申請

→清算人が所在不明であることが確認できたら、供託をすることなく、権利者が単独で登記申請を行うことになります。 
 

5 遺贈を原因とした所有権移転登記等

 

簡略的な抹消とは無関係なお話しですが、単独申請という点で共通するのでこちらでまとめます。

遺贈とは、遺言によって財産をあげるというものであり、相続人に対して行うこともできますし、まったくの第三者である個人や法人に対しても行うことができます。当事務所でも日本赤十字社やお世話になった病院へ遺贈するという内容の遺言書の作成に関与させていただいたことがあります。
 

さて、相続登記の場合は取得する相続人が単独で申請できるのに対し、遺贈の登記については相続人全員または遺言執行者が関与して登記をしなければならないとされております。遺言執行者が協力しないということは考えにくいですが、遺言執行者が選任されていない場合は相続人全員が関与する必要があり、その方の協力が得られないと登記ができないことになります。

さらに、相続人であるAが不動産を取得するにしても、遺言に「不動産をAに相続させる(特定財産承継遺言)」という場合はAが単独で登記申請できるのに、「不動産をAに遺贈する」となっている場合はAが単独申請できないことは不合理だと考えられます。

そこで、遺贈の登記全部という訳ではありませんが、遺贈によって財産をもらう人が相続人である場合に限り、当該相続人(受遺者)が単独で申請できることになりました。

一方で、遺言によって自身が取得取得することを認識した場合は3年以内に登記申請を行う義務が生じ、3年以内に登記をしない場合は「10万円以下の過料」という罰金のようなものを課される可能性があります。
 
 

上記のうち、買戻権の抹消は司法書士としてはかなり楽にはなるかと思いますが、一般的にはあまり関係ないと思われます。また、地上権等の抹消や解散法人の抵当権等の抹消については、あまりお目にかかることは無いものの、お目にかかった時には大変な手間がかかりましたので、該当する方にはかなり大きな改正になると思います。

最後の遺贈については、相続人に遺贈するというケースがそもそも多くなく(遺贈するくらいなら特定財産承継遺言を書くことが多い)、仮に遺贈にするようであれば遺言執行者として受遺者を選任していることが多いため、現実的にはあまり該当するケースは多くないかと思います。

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1月 12 2023

令和5年4月から施行される民法改正等のまとめ②

令和5年4月27日から「相続土地国庫帰属制度」が始まります。今回は、この点についてまとめたいと思います。
なお、新しく「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」という法律ができるため民法改正ではありません。

 
 

1 相続土地国庫帰属制度が出来た理由

 

不動産という財産の多くは高額な財産であり、自宅の不動産を相続することも一般的によくあることです。

すでに社会人として独立していて都会に家を構えており、実家には戻らない予定なので土地が不要という方も多く、そういった場合は第三者に売却することになると思われます。

しかし、そもそも宅地ではなく、山林や農地など第三者には売却ができず、かといって使うこともないため放置されてしまうという土地が日本の至る所にたくさんあり、登記についても相続登記がされないまま亡くなかった方名義のままになっていることがあります。もし、日本中がこのような土地だらけになってしまうと、国や市区町村等が道路を作ったり、公共施設を作る場合などに、土地の所有者から譲ってもらったり、使用することへの承諾を求めようにも誰から土地を譲ってもらえば良いのか分からないため進められなくなってしまいます

そこで、もう今後使用しないような土地については、国に対して引き取ってもらうことができる制度ができました

ただし、単に引き取ってもらえれば良いというものではなく、そのためにはなかなか高いハードルがあります…. 
 

2 制度を使うための条件

 

この制度を満たすためには、次の条件を満たす必要があります。

(1)土地であること

建物は最終的には解体してしまえば無くなるのですが土地はそういう訳にはいきませんので、この制度を使って国に引き取ってもらう不動産は土地でなければなりません。
 

(2)相続・遺贈によって取得したこと

相続や遺贈(受遺者が元の土地所有者の相続人である場合に限る)という、今の所有者の意思で取得していない場合に限ります。したがって、土地を買ったものの使わなくなったので国に引き取ってもらうというようなことはできません。
 

(3)通常の管理ができない土地や処分をするのに多額の費用や管理が必要となる土地では無いこと

訳アリの土地は国は引き取ってくれません。
 

(4)一定の負担金を国に納めること

国に土地を渡してお金がもらえるどころか逆にお金を負担して引き取ってもらうことになります。
 

以下、それぞれの内容について詳しく見ていきます。 
 

3 土地であること

 

上記のとおり引き取ってもらえるのは土地であり、建物は含まれません土地上に建物が存在している場合は、事前に解体しておく必要があります。 
 

4 相続・遺贈によって取得したこと

 

元の所有者が亡くなったことによって取得した人に限られます。共有の場合は、共有者全員で申請をしなければなりません。

また、共有の場合は、一部の方が相続等で取得していれば問題ありません。例えば、甲さんからAさんとBさんが各1/2ずつを売買で取得しました。その後にAさんが亡くなり、相続人であるCさんがAさんの持分を取得し、Bさん1/2、Cさん1/2となった場合、Bさんは売買で取得していますが、相続で取得したCさんと共同して申請することによりこの制度を利用することができます。 
 

5 通常の管理ができない土地や処分をするのに多額の費用や管理が必要となる土地では無いこと

下記のような場合は認められないことになります。

①建物が存在している土地

②地上権や抵当権など第三者の権利が設定されている土地

③道路など、権利を持っていない第三者も施用することが想定されている土地(通路、墓地、境内地、水道用地など)

④土壌汚染など特定有害物質によって汚染されている土地

⑤隣地との境界が不明な土地

⑥権利関係に争いのある土地
 

また、下記のような土地は認められない場合があります(全部ではありません。)。

⑦崖がある土地(勾配が30度以上で高さ5メートル以上)

⑧土地の管理ができないような樹木、工作物、その他有体物が地上または地下に存在する土地

⑨土砂崩れの恐れ、鳥獣被害などが起こる恐れのある土地

⑩その他管理が大変な土地 
 

6 一定の負担金を国に納めること

 

土地の種類によって異なりますが、概ね下記の表のとおりとなり、少なくとも20万円はかかることになります。
↓画像をクリックしていただくと大きく表示されます。

 
 
 

ということで、国に土地を引き取ってもらうとは言っても、その条件を満たす土地で無ければなりませんし、前提として建物の解体が必要であれば建物の解体費が、境界が不明であれば測量の費用など、負担金以外にも多くの費用がかかることになります。
ただでさえ価値が無い土地だから放置されているのに、数十万円もかけて土地を引き取ってもらう方がたくさんいらっしゃるのかは分かりませんが、少なくとも国が引き取ってくれるという制度自体が存在しませんでしたので、そういった意味では大きな一歩かと思います。

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10月 28 2022

遺言執行者の選任はしておいた方が良いか(登記的に)

遺言書作成のご相談、ご依頼をいただくことがあり、基本的に当事務所としては公正証書遺言での作成をお勧めしております。

というのは、通常の自筆証書遺言の場合は、紛失、変造等のリスクがあり、そのリスクを軽減する法務局の自筆証書遺言書保管制度も、法務局が遺言の内容のチェックまでしてくれるわけではないので、最悪の場合無効となってしまうリスクがあるためです。

もちろん、公正証書遺言であっても意思能力が無い等の理由で無効になるリスクが無いわけではありませんが、少なくとも形式違背で無効になることはまず考えられませんので、特段の事情が無い限り公正証書での遺言書の作成をお勧めしております。

また、遺言書作成に当たり、遺言執行者の指定についてもご相談いただくことがありますので、今回はこの点についてまとめたいと思います。

 
 

1 遺言執行者とは

 

そもそも遺言書に記載されている内容は、遺言者ご本人が亡くなったからといって自動的に不動産の名義変更がなされたり、金融機関の預貯金が解約されるわけではありませんので、遺言書の内容を実現する人が必要になってきます。それを実現する人が遺言執行者となります。
 

ただ、遺言執行者は必ず指定しなければならないというものではありませんので、遺言執行者が指定されていなければ、相続人全員が協力して遺言書の内容を実現していくことになりますし、どうしても遺言執行者が必要であれば家庭裁判所に遺言執行者を選任してもらうこともできます。以前、遺言執行者が選任されておらず、かつ相続人の一部の方が協力してくれなかったため、特定の相続人を遺言執行者に選任してもらうよう家庭裁判所に申立てを行い、その通りに選任されて手続を進めたこともあります。 
 

2 遺言執行者になれる人など

 

遺言執行者は、未成年者及び破産者以外の方であれば、誰でもなることができ、特に資格なども必要ありません。特定の相続人を遺言執行者に指定することもできますし、相続とは無関係な弁護士や司法書士等の専門家を指定しておくことも可能です。

さらに、1名に限られていないため複数指定することも可能ですし、順位を付けて指定することも可能であり、法人であっても可能です。

例えば、「妻と長男を遺言執行者に指定する。」、「妻を遺言執行者と指定するが、遺言者よりも前に妻が亡くなっていた場合は長男を指定する。」、「A株式会社を遺言執行者に指定する。」ということが可能です。
 

なお、あくまで遺言執行者の「指定」に過ぎないため、指定された人は遺言執行者になることを拒否することも可能です。 
 

3 遺言執行者の権利と義務

 

(1)権利

①報酬

法律上の原則としては遺言執行者は報酬を受ける権利はありませんが、当事者間に取決めがあれば報酬を受領しても良いことになっているため、専門家が遺言執行者となる場合は遺言者との間で遺言書を作成する時点で遺言執行に関する報酬についても取り決めてあることが一般的です。これは各専門家によって異なりますが、遺産総額の数パーセントというケースが多いかと思います。
 

②遺言者の代理人として行う権限

権利というよりは権限になりますが、遺言執行者は遺言者の代理人として遺言書の内容を実現していく権限があります。したがって、例えば相続人の一部が反対していたとしても手続を進めることが可能です。
 

(2)義務

① 任務を行う義務
遺言執行者が、遺言書において指定を受けて就職を承諾したときは、直ちに遺言執行の手続を進めなければなりません。もちろん、「仕事を投げ出して最優先でやってください」という意味ではなく、「漫然と放置しないでください」という意味になります。

 

② 財産目録の作成等の義務
遺言執行者は、遺言者の財産を調査の上、相続財産の目録を作成して相続人に交付しなければなりません。この点が一番大変というケースも多いかと思います。

 

③ 善管注意義務
遺言執行者は、善管注意義務をもって遺言執行をしなければなりません。なかなか分かりづらいですが、常識的な判断で進めてくださいという感じかと思います。例えば、不動産を売却して代金を相続人に分配するという清算型の遺言があったときに、不当に安い価格で売却してしまった場合には善管注意義務違反で損害賠償請求される恐れがあります。したがって、このような場合には査定書を複数取ったりして金額が妥当であることの記録を取っておくべきだと思います。

 

④ 報告義務
遺言執行者は、相続人から問い合わせがあった場合には状況を報告し、完了した後にも完了の報告をする必要があります。

 

⑤ 引渡義務
遺言執行者は、遺言執行の任務遂行として相続人のために関係者から受領した金銭その他の物や収受したものがある場合には相続人に引渡さなければなりません。遺言執行者が受け取ったものはあくまで相続人や受遺者のために預かっているだけに過ぎませんので当然ですね。

 

⑥ 補償義務
遺言執行者が相続人に引き渡すべき金額等を使ってしまったり、預かったものを壊してしまった時などは弁償する義務があります。これも当然ですね。

 

4 遺言執行者は指定しておいた方が良いのか

 

やっと今回の記事のメインです。
遺言執行者を選任した方が良いかどうかは、その内容、相続人が自身で手続ができるか、相続人間の関係次第となります。

 

(1)内容
登記と関係ない部分ですと、認知や相続人の廃除等がある場合は必ず遺言執行者の指定が必要ですがそのような遺言はあまり多くないため、一般的には気にしなくて良いかと思います。
まず、遺言の内容に、遺贈がある場合は遺言執行者を指定しておいた方が良いと思われます。遺贈とは、基本的には相続人以外の人や法人に対して遺言者の財産を渡すというものであり、例えば相続人ではない孫、兄弟姉妹、甥姪、お世話になった友人知人、NPOや赤十字などの団体に財産を残したい場合になります。遺言執行者がいない場合は相続人が遺贈の手続を行うことになりますが、相続人としては遺贈がなければ自身の取り分が増えることになりますので、遺贈の手続を放置されてしまう可能性があります。これがもし不動産の場合、相続人全員の印鑑証明書が必要になりますので、途端にハードルが上がります。

 

逆に言えば、「A土地は長男に相続させ、B土地は次男に相続させる。」など、相続人だけが受け取るような内容になっている場合、遺言執行者がいなくてもA土地は長男のみで、B土地は次男のみでそれぞれ手続ができますので、必ずしも遺言執行者の指定は必要ありません。なお、このような場合であっても、遺言執行者が登記手続を進めることは可能です。

 

(2)相続人ができるかどうか
上記のとおり、遺言執行者にはたくさんの義務があり、いろいろと調査をしなければなりません。それには当然多くの時間がかかりますし、専門的な知識が必要な場面もたくさんあります。
この点、「相続人の調査だけ」、「財産の調査だけ」、「登記手続だけ」など、ピンポイントに専門家に依頼するということも考えられますが、丸っと専門家にご依頼いただいた方がスムーズに進むのは間違いありません
ただし、専門家に依頼した場合はそれなりに費用もかかりますので、この点を踏まえてご検討いただくことになります。

 

(3)相続人間の関係性
遺言執行者がいる場合、遺言執行者は相続人全員に対して、就任の通知や財産目録等を送付しなければなりません。
となると、相続人が兄弟のみの場合で、遺言書がある場合に、相続人ではあるけどもう何十年も連絡を取っていない兄弟がいる場合など、あまり関りがない方についても送付しなければならず、それが原因でトラブルが生じる可能性があります(兄弟姉妹には遺留分はありません。)。
上記のとおり、遺言書があっても、相続人単独で名義変更等ができてしまいますので、そのような場合には逆に遺言執行者を指定しておかない方が良いかもしれません。

 

5 まとめ

 

あくまで不動産に関する登記だけで考えると、遺贈があるのであれば遺言執行者を指定しておいた方が良いと思いますが、上記のような「A土地は長男に相続させ、B土地は次男に相続させる。」と具体的に決まっている場合は、必ずしも遺言執行者の指定は必要ないかと思います。もちろん、相続人が自身で手続を行うことが不安なので指定しておきたいという場合も多いので、指定していただいても問題無いかと思います。

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1月 18 2022

亡くなった方の遺産や負債の調査

当事務所では、不動産の相続手続のみならず、預貯金や株式の相続手続、さらには負債の調査なども行っております。この点、専門家にご依頼いただければ、基本的にはすべて進めさせていただくのですが、ご自身で行う場合はどのように調べて良いか分からないことも多いかと思います。
 

そこで、今回は財産や負債の調査についてまとめてみたいと思います。なお、完璧にすべての財産を探し出す方法は存在しませんのでご注意ください
 

 
 

1 不動産

 

まず、一番大きな財産である不動産ですが、所有しているかどうかは基本的には法務局にある登記で確認することになります。

ただ、いわゆる登記簿謄本である登記事項証明書を請求する場合、正確な地番等が必要であり、ご自宅であればまだしも別荘だったり、田畑などの場合には番地が分からないことがあります。そのような場合、各市町村役場の税務課に対し、亡くなった方(被相続人)の「名寄帳」(なよせちょう)「名寄証明書」(なようせしょうめいしょ)を請求すると良いと思います。
 

なお、必ずしも「名寄(なよせ)」という名称ではなく、例えば名古屋市だと「課税明細書」という名称になりますが、役所の担当者に「名寄が欲しい」とお話しいただければ分からない人はいないと思います。

この名寄は、端的に言えば、「被相続人が当該市町村内に所有している不動産の一覧表」です。名寄には地番や家屋番号等が記載されていますので、こちらを基に登記事項証明書を取得していただければ、正確な所有関係が分かります。ただ、あくまで「当該市町村内」という限定がありますので、日本全国色んな場所に不動産をお持ちの場合は、それぞれの市町村で請求をしなければならず、まったく手掛かりが無いような市町村に不動産をお持ちの場合は、見つからないということもあり得ます。
 

さらに、この名寄は課税される不動産についてしか載らないことが多いため、非課税の不動産だと名寄でも見つからないこともあります。 
 

2 預貯金

 

預貯金の有無については、残念ですが全金融機関の一覧表などは存在しないため、資料が手元に無ければ手あたり次第調査をするしかありません
 

ただ、金融機関次第ではありますが、口座の有無についてだけであれば電話で聞いても答えてくれるところもありますし、1つの支店に聞くと全支店の口座の有無が分かりますので、まったくどうにもならないものではありません。
 

通帳等の資料があれば問題無いのですが、遠方に居住している兄弟の相続などのケースにおいてはまったく分からないということもありますので、被相続人の最後の住所地の近隣にある全金融機関を周って調査をすることも多いです。過去にご依頼いただいた件では、そのような調査をして相続人の方がまったく認識していなかった金融機関で1000万円以上の預金を見つけたこともあります。 
 

3 株式

 

証券保管振替機構において、個々の株式の銘柄までは分かりませんが、どこの証券会社に口座を持っているかということを調査することができます
 

この調査により証券会社名が分かりますので、あとは個々の証券会社において相続人から残高証明書を請求すれば個々の株式の銘柄等が判明します。

→ ご本人又は亡くなった方の株式等に係る口座の開設先を確認したい場合(証券保管振替機構) 
 

4 生命保険

 

生命保険も上記の株式と同様に、個々の保険の内容までは分かりませんが、どこの生命保険会社に契約があるかについて、生命保険協会において調査をすることができます。調査を請求すると下記のような書類が送付されてきますので、あとは個々の保険会社に電話で尋ね、保険金請求手続を進めることになります。
 

→ ご本人又は亡くなった方の株式等に係る口座の開設先を確認したい場合(生命保険協会)


 

5 借金

 

相続においては、上記のようなプラスの財産だけではなく、借金などのマイナスの財産も相続することになります。

この点、一般的な金融機関、カード会社、消費者金融などは信用情報機関に登録する制度がありますので、当該信用情報機関に照会をすることで借金の状況を調べることができます。ただし、あくまで信用情報機関に登録しているものだけしか分からないため、個人間のお金の貸し借りなどについて調査する方法はありません

 

一般の金融機関 → 全国銀行個人信用情報センター

カード会社関係 → CIC

消費者金融関係 → 日本信用情報機構 
 

6 遺言

 

遺産そのものではありませんが、被相続人が遺言を作っていたかどうかを調べることができる場合があります。
 

まず、公正証書で遺言書を作成されている場合は、全国どこの公証役場でも被相続人が作成した遺言の有無についての検索ができます。ただし、昭和64年1月1日以降に作成されたものに限定され、さらに遺言者が130歳を迎える年になると削除されてしまいます。

→ 遺言検索(加古川公証役場)
 

また、自筆証書遺言で作成されている場合で、法務局の保管制度を利用している場合に限り、全国の法務局において「遺言書保管事実証明書」の請求をすることで、遺言書が保管されているかどうかを調べることができます。

→ 自筆証書遺言書保管制度(法務省)
 
 

以上のような方法で、被相続人の遺産を調査していただき、相続手続を進めてください。また、最初に記載のとおり、当事務所では不動産の相続登記のみならず、遺産全般の相続手続も行っておりますので、ぜひご相談いただければと思います。

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12月 14 2021

相続登記の義務化の施行日が決まりました。

以前より相続登記等が義務化される旨をお知らせしておりましたが、このうち相続登記については令和6年4月1日からとなりました。
 

→ 法務省サイト
 

→ PDF
 


 
 

以下、相続登記等の義務化について大事な部分をまとめておきます。 
 

(1)義務化されたのは土地のみ

 

建物は対象外です。なので、土地はAさん所有、その土地上にBさんの建物が建っていたとして、Bさんが亡くなったとしてもBさんの相続人は建物の相続登記を行う義務はありません。ただ、引き続き相続人等が利用される場合は相続登記をされた方が良いかと思います。

 
 

(2)一定期間内に登記申請が必要

 

相続登記は土地の所有者が亡くなってから(自分が相続人であることを知った時から)3年以内にしなければなりません。さらに、住所移転や氏名変更についても変更してから2年以内に変更登記をしなければなりません。相続登記だけではなく住所や氏名が変わった場合でも登記が必要ですので注意が必要です。まだまだ相続とは無関係という方も住所変更等については大きな影響があります。

 
 

(3)住所変更等については未定

 

上記のとおり令和6年4月1日から施行されるのは相続登記のみとなっており、住所変更等については未定ですが遅くとも令和8年までには施行されることとなっております。

 
 

(4)上記に違反した場合は過料に処せられる可能性があります

 

義務に違反して登記を放置していた場合、相続登記については10万円以下、住所変更等は5万円以下の過料に処せられる可能性があります。ただし、あくまで可能性があるだけであり、違反したとしても必ず課されることが確定している訳ではありません。

 
 
 

最近、将来の義務化に備えて、住所変更だけのご依頼をいただくことが増えてきました。ご自宅であればあまり影響は無いと思いますが、別荘や実家など、居住地ではない不動産については変更登記がされていないことが多いため、時間的に余裕があるうちに進めていただければと思います。

以上、相続登記等の義務化についてでした。

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